隅々まで楽しみたい物語が、ある
SPY×FAMILY

SPY×FAMILY MISSION:62を堪能せよ

SPY×FAMILYの感想・考察です。
原作の内容を一部含みますので、未読の方はご容赦ください。
是非とも、単行本を読んで楽しんでください。

皆サマ、10巻、そしてMISSION:62はご覧になりましたか。
公式ファンブックEYES ONLYにおいて”漫画を楽しく書けるようになろう”がコンセプトの作品だと語られていたSPY×FAMILYの薄暗い部分を辿る話がついに来ました。
正直わくわくで胸の高鳴りが抑えられなかった。。

本編もかなりの長編となっておりアウトプットしたいこともたくさんあるのですが、
5つにまとめて分析・考察していきます。

1.10巻、MISSION:62の立ち位置について

読んだ感想を一言でいうと、『遠藤先生の覚悟を感じた』です。

これまでのお話と同じく、MISSION:62もきちんと単話で完結しています。(オチもある)
このお話の後も家族の関係は変わらないし、飛ばして読んでも何ら問題ありません。
けれども72ページに渡る一話に主人公の語らなくても平気だった過去
割とまじめに描き切ったところに、ある種の覚悟を心なしか感じてしまったわけです。

救いなのが、<黄昏>自身がこの過去の景色を”よく覚えていない”と言っているので、
本人の意識下では影響がないわけですね。(うそかもしれないけど)
トラウマが蘇って日々の任務に支障を来すことはないし、より辛い仕事に身を投じ続けています。
おそらく諜報員になってからが大変すぎて忘れてしまったのでしょう・・。
それでも、無意識下では主人公の根底を支える暗い部分なのだろうなというところがゾクゾクします。

さて、10巻単行本に注目。
9巻まで続いてきた”デザイナーズチェアに登場人物たちが座っている”の流れを
ぶった切って幼少期の主人公が表紙を飾っております。なかなか物憂げな表情。
さらに、本編前のイラストでは哀愁を感じさせる黄昏時の2人とともに、
遠藤先生から”がんばってお読みください”のメッセージがついています。
素敵、。。。
いつものSPY×FAMILYがあるから暗くなりすぎずに読めるのか、
いつものSPY×FAMILYがあるからこそ余計に物悲しくなってしまうのか・・、
よくわからなくなります。とにかく惹かれます。

分析官が感じたこのお話の立ち位置は、
SPY×FAMILYの分岐点にはならなくて、ただ
その気になれば救いようのない話も出せるよという一種の挑戦状

です。新たな一面を示したMISSIONだったとは感じます。
アニメ版がとてもキラキラに制作されているので、それだけじゃないよ、ってメッセージも込められているのかな(願望)。

【余談】
単行本の本体表紙の絵に少しだけ救われたのは私だけでしょうか。
わかってるんですよ、あり得ない構図のお遊びだってことは。
それでも、表紙の”彼”の違う表情を描いてくださったことが嬉しかった。
子供たちには笑って遊んでいてほしいです。現実でもフィクションでも。
推定年齢は、主人公=ヨル=11歳前後、アーニャ=ユーリ=4歳前後
(ブライア姉弟の年齢差のみ確定している)
主人公は幼少時小柄な方だったみたいだから、気持ちヨルさんの方が大きいですね。
それにしてもみんなかわいい。ありがとう先生。

2.東西戦争について

今話では、作品の時間軸では過去の出来事となっている東西戦争が描かれています。

西国において国民に示されていた情報を読み取ると
・開戦前には”都市部で東国に対する抗議デモ
・その数日後に”東国外相は東西協定の見直しを・・・”  提案?
・さらに数日後、”東国軍が国境を越え、東部各州への攻撃を開始” 主人公の故郷ルーウェンも攻撃される
・その後 ”西国軍は抵抗を続けるも東部ルーウェンは陥落”

以上が西国メディアによって開戦前後に報道されているようでした。
それらを元におおまかに開戦への経緯をまとめると、

元々は”東西協定”という条約(不可侵条約のようなもの)によって2国間の平和は一見保たれていたものの、
その協定の内容を変えようとする外交の動きが出始め、西国側では不満の声も高まっていた
そして協定をめぐる交渉がおそらく破綻し、武力による侵攻に発展する運びとなった

のようなイメージかなと思います。
本編中に登場した東国兵は”外交の失敗の結果”と表現しています。

そして、この戦争は少年(おそらく11歳前後)だった主人公が徴兵年齢18歳以上に達するまでには終わらず、
(同郷のお友達が兵士になっていることから)
その後作品の時代より十数年前に”鉄のカーテン”が降ろされ、冷戦状態に突入したということになっています。

さて開戦当時に戻りまして、
西国国民の戦争へのとらえ方について、年齢別に少し傾向があったので報告します。
(サンプル数が少ないので統計的には怪しい)

・少年たち:戦争ごっこをして遊んでいる ”軍隊に入るんだ”
・30~40代おじちゃん世代:”ごっこ遊びをしているうちは大丈夫”、”協定のおかげで目立った小競り合いも起きとらん”
・60~70代のおじいちゃん世代:”立派な軍人”、”この平和ボケェ!!・・・東の悪魔どもはな隙あらば我々を…”

ここから推察するに、おじいちゃんの世代では東西国間で争いがあって、いまだに怨恨をもっている。
一方40代くらいの人はその戦争を経験しておらず、子供にあたる世代の子たちが戦争のごっこ遊びをしていても笑って許せる。
ことが伺えます。
そして、子供たちには愛国教育に近いものがされているようですね。

おそらく30~40年ほど前に前回の戦争があって、復興は済んでいるけども未だ軍隊が身近にあるような背景なのでしょう。
戦争が終結しても、皆が皆納得する形で終わらせるというのはとても難しいことです。
史実と混同するのは危険かもしれませんが、第一次世界大戦の講和条約に不満をもったドイツが
第二次世界大戦のきっかけを引き起こすことになったり、敗戦国を悪役に仕立てるよう戦勝国が事実を捻じ曲げたり・・・。
一度終わったとしても、戦争という過去に囚われて遺恨が消えない人間も一定数いるのだろうと思います。
現実でも、未だに戦争はなくなっていません。

戦争、情報戦、プロパガンダ・・・
複雑で難しい問題を扱っていると思います。
考えすぎるとドツボにはまりそうで、遠藤先生大丈夫かな、辛くならないかな・・・と少し心配しています。
ワタクシ作者に理性をもっていないので、(ユーリくんの姉さん状態)
矛盾があっても、変更があっても、なかったことにしてほしいと言われればそれまで!です。

この作品がきっかけでヨーロッパ近代史を少し学ぶようになりました。
事実は小説よりも奇なり。歴史を学ぶと、SPY×FAMILYの世界観がより深く楽しめる気がします。

3.父親との関係について

家族大好き、性善説思考の分析官からすると、”父上は息子を愛していた”としか読み取れませんでした。
スパイ説、生存説など今後どうとでも描けるような描写に留まっていたので、今後の楽しみでもあるし、
ただ現在の主人公が引きずっているわけでもなさそうなので以降父上が出てこないでもいいかなとも思っています。

願望の入り混じった平和ボケの分析官が導き出した父親像を晒します。

父親像考察:
西国人の外務公務員。仕事が忙しく家のことは妻に任せ気味。-①
息子のことを愛しているが、それ以上に周りに流されない優秀な大人になってほしいと願っている。-②
東国との外交交渉に失敗し、その結果すでに亡くなっている。-③

※補足(想像力のウラガワ)
①西国人の外務公務員。仕事が忙しく家のことは妻に任せ気味
東国人との交流経験があり実態を知っていて、東西情勢によって忙しさが左右される仕事をしている。
・・・というところから外務公務員としました。(外国とのやり取りをする国家機関の人です)
東国人のスパイという説もあり得るかなと思うのですが、
”スパイは目立ってはいけない”
<黄昏>が作中で何度もひとりごちているこの原則を父上が厳守していない気がするのです。
そう感じた作中における息子のセリフを2つ挙げると、
1.<参謀>”ウチは父さんが厳しいから・・・”
(周囲に溶け込むことが大切なら、友達と遊ぶための玩具を波立たせず買ってあげられるのが平凡な父親でしょう。
明らかに周りから浮いている父親って風に見られる可能性があります。)
2.<参謀>”自分だって いつも母さんと争ってるくせに・・・”
(争ってまで主張したいことがあるのは、父上に本音がある証拠です。喧嘩は目立ちます。)
いかがでしょうか。
家族に絆されてスパイ失格になった父親、であればそれはそれで激アツな展開ですが…。
それと、<参謀>”あ・・・ 父さん帰ってたんだ”
のセリフから、定時に仕事するルーティン系の職業ではなく、
いつ仕事でいつ帰ってくるかわからない不規則で忙しいお仕事をしていたことが伺えます。
それゆえに息子とのすれ違いも起きていたのでしょうか。

②息子のことを愛しているが、それ以上に周りに流されない優秀な大人になってほしいと願っている
親子でのやり取りからの想像です。
勉強してほしいのも、軍隊に入ってほしくないのも、彼の将来を思っての発言だと思っています。
主人公の父親ですから、優秀な人であることは間違いないはずなのです(願望?)
世間やメディアでは兵隊・戦争を名誉なこととして扱う風潮があっても、それに流されてほしくない。
正しい情報を自分で考え、取捨選択できる人になってほしいという思いがあったからこそ、
息子に厳しかったのではないかなぁと思います。
あとは、戦争という実態を知っていて愛する息子が軍隊に入りたいと言い出すのは悲しいことですよね。(時代によるかもしれませんが・・)
なぜ父上が手を上げたのかは未だ謎なのですが、息子が自ら危ないところに行くのを許せなかったのではないかと想像しておきます。
父上が東西間の平和のために尽力していたと信じたい・・・!

③東国との外交交渉に失敗し、その結果すでに亡くなっている
本編の読み取りが正しければ、父上はお祭りの日に出張から帰ってくる予定でした。
けれど、その日を迎えることなくその前日に日常は終わりを告げます。
そして、その後父上は行方知らずとなっています。
”出張から帰ったら一緒に祭り回ろうか”
このセリフからもあるように、父上は帰ってくるつもりだった…のだと思います。
(これが嘘だったらまぁ。まぁ。ひどい話です)

仕事が無事に終われば帰ってくる

帰ってこなかったのは、仕事が無事に終わらなかった(戦争が始まった)から

非常に短絡的な想像ではありますが、結びつけたくなってしまう。
さらにいうと、疎開した後の親子での場面、
母上の声にならないセリフが意味ありげに感じてしまったのです。
”父さんだって家に帰ってるかもしれないじゃないか”
”・・・・・・・”
この”・・・・”がもし必要なものだったとすると、母上は恐らく父上の状況をわかっていた…気がします。
けれど、とても息子に言えることではなかった。
母上は何を思い、息子を守っていたんでしょうか。
真実が今後語られるかは分かりませんが、
”母は強かった”
主人公の記憶にそう残っていたことは、フォージャー夫妻の仲を救ったことは間違いありません。

ということで父親について分析してみました。
反抗期までは行かないけど、親子ですれ違いが生じるような関係性だったようです。
(それでも、お互いを家族として大切にしていたと思いたい)
おそらく最後の対話場面、
父上が見せた嬉しそうな表情と、息子の表情との対比が切なかったですね。
この別れ方が主人公に傷を残したのは確かだと思います。
だけど、そんな傷も忘れ去るくらい彼は苦労と嘘を重ねて生きていくことになる訳です。
うーん・・・。つらい
この傷をえぐり返す機会が来るのであれば、しっかりと見届けたいものです。

4.山中におけるやり取りの意味

西国兵として戦場を生きる主人公が、敵である東国の兵士と会話をする場面があります。
決して派手ではないけれども、物語の”転”となる重要なところだと思います。
そのときの彼の例え話が興味深い。

どっかの大学の研究は・・・
軽く調べた感じでは我々の世界では確認できませんでした^^
ちょっと近いかな、と感じたのがこちらの記事に掲載されていた研究。
脳は「他者への罰」に快感を覚える  WIRED.jp
ロンドン大学ユニバーシティー・カレッジ(UCL)の、Tania Singer氏率いる研究チームが論文雑誌”Nature”に発表した社会神経科学の研究です。
(Natureに掲載されるってすごいことなのですよ。)
”暴力を忌避する性質”のことを調べているわけではありませんが、現象としては似たようなことかなーと。
不公平に裏切った(浮気した)人物に対して罰(暴力)が与えられた場合、
かわいそうという共感ではなく、ざまあみろという快楽を感じやすい傾向がみられるといった内容ですね。

そして、東国の彼とのやり取りを経てなんやかんやあった結果、主人公に浮かんだ言葉がこちら
”何だ・・・?オレは何をしている・・・?”

この東国兵とのやり取りがもたらしたものについて、
分析官は暴力を忌避する本来の彼を表出させたであるとみています。

戦争が身近にある時代にいても、臆病で心優しかった主人公の言動を辿ってみましょう。

・”東国人をギッタギッタにしてやる”に対して”今日はやめとく”
・”もっと違う遊びを――”
・”みんなの仇を・・・”と言いながら・・・
・”みんなで東国を倒そうぜ!!” ”タメ口きいてすみません軍曹殿・・・!”
に対して”やめろよ どうでもいいよ”

これらの会話がなされていたシーンを今一度読んでみてください!

兵隊を演じることはできても、本来の彼はあまり争いに対して積極的でない印象です。
戦争教育がまかり通って”ラベリング”されていたであろう時代に、
周囲の影響は受けつつも自分で考えて意見をもっていた賢い人物であったのでしょうし、
それは父上の教育によるおかげもあったのではないかと思うのです。

戦場において失われかけていた本来の性質が顔を出してしまった所為で、
幸か不幸か主人公の人生は大きく動いていくことになります。

【余談】
ここで取り上げたやり取りの影響もあってか、旧友に再会してからの主人公は
表情も言葉遣いも完全に少年に戻ってしまっています。
これが山中でのやり取りなしにいきなりそうなったら、
違和感がすごかっただろうし、理解しづらかったように感じます。(すごい構成)
不覚にも東国兵に出会って人間味を感じ、
人間らしいところを少し取り戻したばかりにあの涙がスッと出てきたのではないかと。
口調、表情の柔らかさに幼さがまだ残っていて、
彼が心を殺したまま身体だけ大人になったことがわかりやるせなくなります。

5.玉ねぎについて

スカウトの場面でWISE局員は、玉ねぎを用いた例え話とともに登場します。
んまぁ、かっこつけているだけのような気もしますが^^

”旧友と再会したことでボロが出た”ことを、
玉ねぎの葉が剥がされた=身分を偽るための嘘が暴かれた、と表現しているようです。
また彼曰く、”涙なしにはその葉を剥がせない”のだそうです。
逆に言うと、涙するくらい強い心の動きや力が加わると、
建前というのは剥がれてしまうんだぜってことが言いたいのでしょうか。

おそらく、陸軍情報部が以前から監視をしていて例の再会場面を捉えていたのでしょうね。
そこで違和感を感じ調査されたのでしょう。
優秀なことも理由としてあったのでしょうが、
身分の偽装という弱みを握られたことで、諜報員として勧誘された可能性もあります。
諜報員ってのは過酷なお仕事でしょうから、忠実に従わせて思い通りに動かすために
弱みを握っておくのは常套手段なのかなと考えられます。
いやぁ、ブラックですねー
まだ明らかになっていないことが多すぎてなんとも言えませんが、
WISEが<黄昏>のラスボス=平和を脅かす存在であることも否定できないんですよね。
(刑事ドラマの黒幕が警察組織だったみたいな展開!?わくわく)

この後、主人公の元にも雷が落とされて現代へ戻ります。
<黄昏>にとって雷とは、救いようのない人生からの、
あの優しい指導の日々であったというオチでした。
もうシリアスがぶっ飛んでコメディになるくらいの衝撃であったようです。

そして、フォージャー家に戻ってからも玉ねぎが登場。
幾重にも建前が重なって”家族”の形を保っているとして、
玉ねぎが暗喩になっているのでしょう。
そして局員の例え話を踏襲するのであれば、
主人公が冷静になりきれず涙を流した時、
それが彼の建前がはがれるときだという伏線かもしれませんね。

かっこいい<黄昏>氏も好きですが、
SPY×FAMILYを応援する身としては、彼の幸せを願う身としては、
玉ねぎの葉を剥いた先にある彼の歪で柔らかいところを
フォージャー家が見つけてくれたらいいなと祈らずにはいられません。
遠藤先生がそんな彼を描いてくれるかは分かりませんが、
(だってコメディだもの)
もしそのときには一緒に涙いたします。

ということで報告は以上です!
MISSION:62でがんばりすぎたのか、10巻後半のロイドさんは脇役モードです^^
けれでも、家族みんなが少しずつ育っていってくれててほっこりします。
(”KAJI”雑誌を読むヨルさん可愛すぎませんか)
陰ながら今後も応援していきます。
今回は中々長くなってしまったのですが、
より多くの情報と衝動が本編には詰まっておりますので、
じっくり味わってみてください。

ありがとう遠藤先生、ありがとうSPY×FAMILY

解散!