SPY×FAMILYの感想・考察です。
原作の内容を一部含みますので、未読の方はご容赦ください。
是非とも、単行本を読んで楽しんでからお越しください。
MISSION:53は、単行本8巻の本編ラストを飾っております。
ヨルさんが殺し屋としてのスタンスを再認識する長編の一幕。
この回ではロイドとアーニャ不在の中、
ヨルさんが1人静かに、だけど熱く覚悟を決めます。
ラストページがギャグで終わらない珍しい回でした。
そのためか、バランスをとるために途中まではヨルさんが1人コメディしています。
それでも、クライマックスがカッコよすぎて読み終わり時には涙が止まりませぬでした。
ギャグマンガのまじめシーンとしてサラサラ読むこともできる一方で、
登場人物たちが裏に秘めているものを無駄に(?)想像しながらじっくり読んでしまうと、
切なくて感動させられてしまう秀逸なお話でした。
今回はお涙頂戴コマを4つピックアップします。
【余談】
8巻を読み終わってから巻頭のイラスト(ヨルさんin ガーデン)
を再度拝みますと、彼女がまぶしくて美しくて、恋に落ちます。
これほんと。
神々しくて、誰も近づかせないような雰囲気にも見える・・。
ちょっとさみしい。でも美しい。
1.『今ならもっと…』
その前ページの、ユーリくんを見守る姉さんもとても素敵なのですが、涙腺が更に緩んだのがこちら。
ヨルさんが幼いころから過酷な仕事を続けてきた理由は、”ユーリの他愛ない暮らし”を守るため。
これまで明言はされていませんでしたが、既に伝わってきていることだったように思います。
登場時からユーリがヨルさんに”普通の幸せ”を願っていると伝えていたことや、
その上で彼自身は姉さんに心配させないように秘密警察の仕事のことを隠していること。
これは彼がヨルさんに、今までそうしてもらっていたからこそそうしているのじゃないかなというのが読み取れます。
だって姉弟ですからね。血は争えないといいますか。
ただ、このコマで初めて、他愛ない暮らしを望み、さらにその願いを叶えるための原動力となる存在に
フォージャー家が加わったことがヨルさんの口(心の映像?)から明らかになりました。
ここの描写はヨルさんフィルターがかかっているものだと思うのですが、
本当に平穏な家族を象徴するような優しい表情をみんながしているのもグッとくるものがあります。
この理想ともいえる家族像はロイドの手腕だけでなく、ヨルさんの心の美しさがそう見せてくれているのもあるでしょうね。
”もっと…”の後ろにはセリフがありません。けれど、構成と画によって全てが語られているんだと思う。
小説では表現できない漫画ならではの表現で、とてもとても美しいと思いました。
ここで気になったことが1つ。
今回の長編において、ヨルさん視点の場面が多いのですが、
ユーリくんのことを思い返しているときのコマでは
ヨルさんとユーリ2人が描かれている、三人称視点であるのに対して、
ロイドやアーニャたち、フォージャー家を想像しているときは
ヨルさんの視点(一人称視点)で描かれているのです。
(MISSION:49の深夜、そしてこのコマ)
ユーリとの姉弟の関係というのは絶対的であり、多少なりとも義務をはらんでいるのに対し、
フォージャー家はあくまでヨルさんが自ら望んでいる関係であることを示唆して区別しているのかも…と思いました。
(逆に言うと、望まなければ当たり前に一緒にいる関係ではない。仮初のもの)
ユーリくんは極端な話、何があっても血縁関係であり、大切な人である事は誰から見ても明らかなことです。
一方でロイドや連れ子のアーニャは、必ずしも一緒にいなければいけない存在では決して無いのです。
自分で選んで大切にしようとしている人たちだからこそヨルさんの視点で、
そしてその中に彼女自身はいない状態で、家族が描かれているのではないでしょうか。
ただもしも将来、彼らが本物の家族になるなんてことがあれば、
その時はヨルさんが描くフォージャー家の中に彼女自身の姿も描いていて欲しいなと願うばかりです。
2.『私の平穏はいらない』
大切な人の平穏な生活を望んでいるのに、自分のそれについては不要であると…。
まさに自己犠牲を体現する人ですね。
この作品にはそういう人が散見されているのでまたまとめたいと思います。
ヨルさんの綺麗な御手々が痛々しいです。
隠しきれない傷は負いたくないのではなかったのですか・・・!
6巻MISSION:35において、夫を散々振り回して(足も振り回して)まで
”手放したくないと思ってる”と偽装生活を大事に思っていることを明らかにしたヨルさんですが、
自分の現状維持よりも守りたいものに気付き、もう一歩先に行ってしまったようです。
クルーズ大冒険における今回の”<いばら姫>の仕事を最後にしたなら”、
その先にあったかもしれないのはきっとヨルさんの平穏な生活だったと思うのです。
利害の一致により成り立つ歪な家族ではありますが、
その存在を信じ、人並みの幸せが得られる可能性を彼女は確かに感じていたんですよね。
ただ、ここにきてそれを否定し、あくまで世の中のお掃除を続けていく覚悟を決めたようです。
ヨルさん、幸せになっていいんですよ・・・(涙
もどかしいいい
彼女のこの想いは、フォージャー家を強く強く守ってくれると思います。
けれど、守りたいものの中におそらく彼女自身は含まれておりません…。
3.ヨルさんの覚悟を決めた瞳
胸元を敵さんに切られてしまうところの、ヨルさんの瞳のみを描いたコマです。
真正面を向いているんです。
それまで、ヨルさんが敵さんからの攻撃をどのように受けかわしていたかを読み返してもらうと分かりやすい。
傷つくことを恐れていない、髪型が変わってしまうかもしれないなんて考えていない。
敵さんから目を逸らさずに、真正面を向いているんです。
違う漫画の話になって申し訳ないのですが、このシーンを見て自分は広江礼威氏のBLACK LAGOON『Fujiyama Gangsta Paradise』のエピソードを思い出しました。
ヒロインレヴィのセリフを引用します。
”生きるのに執着する奴ァ怯えが出る、眼が曇る。そんなものがハナからなけりゃな、地の果てまでも闘えるんだ。”
生きるのに執着した人がどうなったかについては、気になれば読んでみてください。
このセリフをお借りするなら、ヨルさんは
今の生活を続けることに執着するのを捨ててしまった、
さらに生きることへの執着も捨て、怯えも捨て、戦うことへの覚悟を決めてしまった…とも想像できるのです。
急所である心臓に近い胸元を斬られるというのは恐怖心や抵抗感が出るはずなのに、
それにひるむことなく攻撃に転じたことで形勢を立て直すことに成功しています。
覚悟を決めた彼女は強い。
正に任務に集中している状態といえるのでしょう。
それと同時に、切ない。
胸元のキズは大丈夫かな…と心配になりますが、確認することは現状できてません。
お色気になびかない遠藤先生も好きです。
4.『ロイドさんなら 認めてくれる 許してくれる』
出会ってからすぐのロイドの言葉をヨルさんはしっかり記憶しているんですね。
やっぱり本当に嬉しかったというか、救われた瞬間なのかなと思います。
”この人しかいない”、”ロイドさんなら”など、
ヨルさんのロイドに対する感情は恋愛ではないかもしれないけれど、
もっと深い親愛のような…絶対的な信頼を置いていることが伺えて感動します。
MISSION:2で出てきた場面を、ここでヨルさん視点でもう一度描いてくれたことも嬉しかった。
ロイド視点では違ったように見受けられましたが、
ヨルさん視点では、優しい笑顔で彼はこの言葉を伝えていたんですねぇ…。
ここの一連の語りをやや誇大妄想してしまうと・・・。
ヨルさんが殺しの仕事で最期を迎えてしまったとしても、
眠りにつく前にロイドさんが「ヨルさん、よくがんばりましたね。」って
言ってくれることが彼女にとって最上の救いである、
ということでいいのでしょうか・・・。
いや、そんなことはあってはならないのですが!
SPY×FAMILYがこれからも続くために、ヨルさんの隠し事は秘められたままです。
それでも、彼女が一方的に信じているだけであっても
自らの生き方に味方してくれる誰かがいるという事実は
彼女をより強くしてくれるのではないでしょうか。
これがシリアスな物語だと死亡フラグ…なんてこともありますが、
・・・SPY×FAMILYなので!
たぶん、ヨルさんが誰にも負けないくらい最強になって済むような気がしています^^
ありがとう遠藤先生、ありがとうSPY×FAMILY
【余談】
なぜ”ヨル”ではなく”ヨルさん”と記したくなるのか・・・
ヨルさんという四文字が語呂がいいのもあると思うし、
ワタクシの場合主人公と呼び方が同調しやすいクセがあるようです。
というか、今気づきましたが
”ヨルさん”呼びをするのって主要登場人物だとロイドだけ?
”ロイドさん”呼びをするのもヨルさんだけ?
・・・え?
え?これは個人的に胸アツなのですが。
(2人とも友人や家族が限りなく少ないのはあるし、
メタ的には固有の呼び方があった方がセリフだけの場面で
誰の言葉か判別しやすいからでしょうけども。)
ちょっと、この件に関しては調査が必要そうです・・・。
1人で勝手に盛り上がっておりますが、今回はここまで。
解散!