隅々まで楽しみたい物語が、ある
Artiste-アルティストー

アルティストのココが好き①料理人は芸術家という視点

フランス・パリを舞台にしたさもえど太郎先生による漫画”Artiste”について綴ります。
何回も読みたくなる心温まる作品です。

ココが好き!シリーズ今回は、
料理マンガに私が求めていたことを気付かせてくれたことについて。

実はワタクシ、食べることが好きです。
学生時代は”食”にまつわる学問分野の道へひた走り、
就職活動も”食”に関係ない職種は応募する気にすらなれず、
食べることをすごく大事にして生きてきた自負があります。
ただ、今まで料理を題材にした漫画に対してハマるという経験がありませんでした。
読んでいて美味しそうだな〜と幸せになるし読み進めるけれど、
手元に置いて何回も読み返したくなるような作品とは縁がなかったのです。
そして、その理由がよく分からなかった。

アルティスト一巻の表紙は主人公たちの周りに美味しそうな食材が鮮やかに散りばめられています。
料理人の漫画だろうなと読む前から想像はできましたが、正直ここまで惚れ込むとは予想せず、軽い気持ちでページを開いた記憶があります。
この作品実は、料理のバリエーションやレシピ紹介ではなく、登場人物たちの成長に比重が置かれています。(ジャンルはグルメではなくヒューマンドラマ)
そして、この成長も”より強く”ではなく”より豊かに”の成長なのです。つまり、料理を勝負事ではなく芸術として扱いながら彼らの成長を辿っていけるのだということに気付いた時、もーなんだか・・・新しい発見をして視界がぶわっと広がるのを感じました。

改めて発見できたのは、自分は勝負事があまり好きではないということ。
フィギュアスケートだったりサッカーの試合にしても、点数や勝ち負けに拘らず、
技を磨いてきた職人たちの芸術として観戦する方が個人的に楽しく見られます。

商業誌では盛り上がりを作るために、料理をバトルで描く機会がどうしても多くなります。そうすれば、必然と勝ちと負けという判定が出てしまう。
決着がつくことは分かりやすいけれども、私としてはどっちも美味しそうなのになぜ優劣がつけられてしまうのかとモヤモヤしていたのでしょうね。

アルティストではあまり料理に対する大げさなリアクションが出てきません。料理そのものの美味しさよりも、食事を囲む風景やそれが生み出されるまでの背景や職人たちの人となりが丁寧に描かれることで、読者の想像でそれがいかようにも素晴らしいものになる見せ方なのではないかと思っています。
つまり、読者側にも心の豊かさや想像力が必要とされる大人向けの漫画かもしれません。

料理を芸術として扱うのだと作品内で教えてくれたのは、パリで芸術家たちにアパルトマンの部屋を貸し出している大家のカトリーヌでした。
物件の内覧に来た料理人ジルベールに対して彼女はこう言います。

“あんたもうちの住人の典型でしょ 金のない芸術家”

                  (単行本一巻)

この前後のやり取りもとても素敵なので、ぜひ作品で楽しんでください!

食べることは誰にとっても日常で、逆に芸術はなじみのない人には敷居が高いものと思われがちですが、日ごろ家族のために作っている料理が一種の芸術活動なのだとすれば、芸術が一気に身近に感じられる、そんな気がしませんか?
日本を舞台にしたらなかなか気づけなかった、芸術の都パリならではの物語だと思います。

バチバチした料理漫画が少し苦手な方にもおすすめ、静かで、でもアツい作品です。
ありがとうさもえど太郎先生、ありがとうArtiste
今回はここまでです。またね